ケベック報告

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外傷性頚部症候群(WAD)の案件で損保会社側からの意見書の中でよく引用されるのがケベック報告です。これは1995年にケベックむち打ち関連障害特別調査団が作成した報告書でむち打ち症(WAD)を分類し、治療のガイドラインを示したものです。

具体的にはGrade 0~IVまで分類し、0が症状なし、Iは他覚的所見がない頚部愁訴、Ⅱは他覚的所見(可動域制限、圧痛点)がある頚部愁訴、Ⅲが神経所見を伴う頚部愁訴、Ⅳが骨折または脱臼を伴う頚部愁訴となっています。

一般的な“むちうち”はこの分類のGrade 0~Ⅱとされることが多いのですが、ガイドラインではGrade Ⅰでは特別な治療が必要なく、GradeⅡでも4日以上の安静は必要ないとされています。そしてGradeⅠでは7日目、GradeⅡでは3週目に再評価が必要とされ、その時点で軽快していなければ、整形外科治療以外に心理的療法を勧めています。

損保会社からの意見書ではこの論文を根拠にし、実際に要した休業期間や治療期間が不当に長いとの主張をしてくるケースが想定されます。実際にあった意見書ではGradeⅠ、Ⅱの症例では“3週間以上の治療の継続に意義がない“との主張がありました。これはケベック報告を歪曲したものと言えるでしょう。ケベック報告で述べているのはあくまで専門家による定期的な再評価の必要性で、一定期間で治療を打ち切るということはありません。

しかしケベック報告にはいくつかの問題点があります。まずはガイドラインでの治療のエンドポイントが症状の治癒ではなく、仕事などの活動再開におかれているところです。痛くても何とか仕事ができるようになれば治療が終了とされるのでは、多くの患者さんは納得できないでしょう。

そしてケベック報告では頚部愁訴以外のめまい、耳鳴りなど多彩な症状について言及をしていません。そしてこの報告の中のデータは人種背景、社会背景、医療背景などが国内のものと異なっております。われわれが普段取り扱っているWADとは少し異なる可能性があるのです。

最後に一番の大きな問題は自動車保険会社からの依頼で書かれた論文であることです。損保会社がスポンサー(実際に研究費が出ているかどうか書いてないのですが、おそらく出ているでしょう)の論文ですから、裁判で必要とされる客観的な証拠とはなり得ないでしょう。

以上の点からWAD関連での事件でケベック報告を引用するのは不適切と言えるでしょう。

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