交通事故で歯が折れたら大変ですね。実は交通事故で歯が折れることは珍しくありません。そして歯の欠損はトラブルの原因となりやすいです。
本記事は、交通事故で折れた歯の治療に使う保険や、歯の欠損が後遺障害に認定されるポイントを解説します。
最終更新日: 2024/5/13
Table of Contents
歯が折れた状態が歯牙欠損
歯牙欠損とは、交通事故によって歯に外力が加わり、歯が根っこの部分まで抜け落ちたり、口の中で歯の3/4以上が欠損した状態のことです。
交通事故で歯が折れたら保険は使えるの?
交通事故で折れた歯は自賠責保険から支払われる
交通事故による歯の損傷でも、相手が加入している自賠責保険から治療費を請求できます。自分に過失がない場合は最低でも治療費の80%を請求できますが、上限は最大120万円です。
相手が任意保険に加入している場合は、120万円を超える分の治療費も請求できます。また、自分が傷害保険に加入している場合にも、治療費の請求が可能です。
<参考>
【日経メディカル】歯科医の治療方針で慰謝料が大きく変わる?!
事故で折れた歯でも健康保険は使える
交通事故で歯が折れた場合でも、虫歯の治療と同じように健康保険を使えます。ただし、入れ歯やセラミックブリッジなどの審美治療は保険適用外です。
顎の骨の欠損がひどい場合には、インプラント治療が保険適用になることもあります。しかし、専門の歯科医師や大学病院での治療が必要です。
仕事中の交通事故で折れた歯なら労災保険が使える
仕事中の交通事故による歯の損傷には、労災保険が利用できる場合もあります。
歯の後遺障害を理解するには治療法を知る必要がある
歯の後遺障害を理解するためには、治療方法について知る必要があります。少し詳しく説明します。
歯牙の大部分が欠損した場合の治療法
歯の大部分が欠損した場合の治療方法は、主に全部被覆冠による修復です。治療の前に一般的に行われるのは、神経の治療や支台築造などの前処置です。
全部被覆冠の材質は、健康保険が適用されるプラスチックや金属から、自由診療のゴールドやセラミックなど多種多様です。
それぞれの材質には特徴がありますが、歯科治療の経験がない歯を治療する場合、最も見た目や機能の回復が期待できるのはセラミック製の全部被覆冠です。
しかし、噛み合わせや咬合力の問題で、セラミックが適用されない場合もあります。
歯根から歯そのものが欠損した場合の治療法
歯根から歯そのものが欠損した場合の治療方法は、可撤性義歯(入れ歯)、固定性義歯(ブリッジ)、インプラントの3種類があります。
可撤性義歯(入れ歯)
可撤性義歯は、残っている歯にフックをかけて装着する入れ歯で、自由診療と保険診療の選択肢があります。
可撤性義歯は、一本から複数の歯の欠損に対応でき、また治療期間も比較的短いのが利点です。自由診療の場合、材質やデザインの自由度が高く、機能的にも優れていることが多いです。
しかし、基本的な構造は変わらないため、噛む力や食事の清掃、定期的なメンテナンスが必要です。
もし事故前に口の機能が健康だった場合、他の治療法と比べて機能の回復が難しいと言われています。
固定性義歯(ブリッジ)
固定性義歯(ブリッジ)は、欠損した歯の両側の歯を支台として冠を取り付ける治療法です。自由診療と保険診療の選択肢があります。
装着感や咀嚼感は可撤性義歯に比べて違和感が少なく、自由診療ではセラミックを使用することで審美的な回復も可能です。
しかし、隣接する歯の状態や欠損した歯の数や位置によって治療の適否が異なります。また、支台となる歯にとっては欠損した歯の負担も加わることになります。
そのため、残っている歯の強度や歯周病の進行状況、咬合負担能力などの評価によっては、固定性義歯が適用できない場合もあります。
また、長期間使用すると欠損した部分の歯茎の形状が変化し、見た目の問題や食べ物が挟まるなどのトラブルが生じ、追加の治療が必要になることもあります。
インプラント
インプラントは、チタン製の人工歯根を歯槽骨に埋め込み、その上に冠を装着する治療法です。ほとんどの場合、自由診療となります。
歯槽骨を支台とするため、隣接する歯を形状修正する必要なく、咬合力を完全に回復することができ、一本から複数の歯の欠損に対応できます。
治療法自体も確立しているため、適切な治療を行うと他の治療法と同等以上の長期的な効果が期待できます。
ただし、インプラント治療には外科的な処置が必要であり、骨補填材を使用して骨の増大手術や歯肉移植手術を同時に行うこともあります。
また、患者の恐怖心や全身的な既往歴によっては、インプラント治療が適用できない場合があります。
交通事故で折れた歯の後遺障害の決まり方
交通事故で折れた歯の後遺障害の等級は、歯の欠損本数によって決定されます。以下の条件が交通事故によって満たされた場合、後遺障害に認定されます。
- 歯牙そのものを歯根に至るまで喪失した場合
- 口腔内に露出している部分の3/4以上を欠損した場合
- 上記1)および2)の治療に際して歯科技工上の理由により残存歯冠の大部分を欠損したものと同等の状態になった場合
特に条件③が理解しにくいかもしれません。例えば、連続して並んでいる3本の歯があり、その中央の歯が交通事故によって欠損したとします。
この場合、一般的には可撤式義歯(入れ歯)による治療が行われ、両隣の歯にはフック(鉤)を装着するための形態修正が行われます。
ただし、修復範囲は小さいです。その結果、後遺障害の条件を満たすのは欠損した歯1本のみです。
一方、固定性義歯(ブリッジ)による治療の場合、両隣の歯を元々健康な状態から全部被覆冠で修復するため、修復範囲は大きくなります。
最終的には、欠損した歯1本に加えて隣接する歯2本が条件を満たし、認定対象歯牙は3本となります。したがって、適用される治療法によって認定対象の歯の数は変わることになります。
歯の欠損本数に応じた後遺障害等級は以下のとおりです。
- 14歯以上 10級4号
- 10歯以上 11級4号
- 7歯以上 12級3号
- 5歯以上 13級4号
- 3歯以上 14級2号
実際の後遺障害認定では、事故前の既存の障害も含まれることになります。交通事故前の記録がある場合は、既存障害の後遺障害も別途評価されます。
後遺障害の評価は以下のような形式で示されます。
加重 ○級△号 既存障害 ×級□号
ただし、事故前から既存の障害が自賠責認定基準を満たしていない場合は、既存障害は考慮されません。
このようなケースでは、交通事故での歯の欠損本数だけで後遺障害の等級が判定されます。
交通事故で折れた歯の後遺障害
歯の欠損に関連する後遺障害としては、言語機能障害、咀嚼障害、開口障害などが考えられます。
言語機能障害
歯の欠損によって発音が困難になることがあります。
特に、舌が上顎の前歯に触れる「さ行」や「だ行」などの発音が困難になることがあります。
歯の補綴治療だけでなく、舌の形状や咬合との関係などの細かい部分の回復が必要です。
評価には歯科医師による客観的な評価が必要です。
咀嚼障害
咀嚼に関連する器官の障害により、食物を十分に噛み砕けない状態を指します。舌や顎周辺の筋肉、歯、顎などが関係しています。
歯の喪失による上下の歯の接触の喪失や変化が、咀嚼障害の原因となることがあります。
評価方法としては、「咀嚼状況報告表」や食べ物の試料を用いる方法があります。
開口障害
口を十分に開けられない状態を指します。具体的には、開口量や開口時に変化が生じます。
顎関節や顔面周辺の筋肉、神経系が開口動作に影響を与える器官であり、歯牙はそれに含まれません。
一方、閉口動作における最終的な顎の位置を決定するのは上下顎歯牙の接触なので、受傷によってそれらが障害され閉口時の顎の位置が不安定になれば、顎関節症が発症して二次的に開口障害が生じる可能性があります。
しかし、こちらは理論上関連があったとしてもその診断が困難であり、受傷前の顎関節症状の有無や程度、その他の口腔内状況を示す資料から関連性を主張する形となります。
【弁護士必見】交通事故で歯が折れた際の後遺障害認定ポイント
治療方針が歯の後遺障害等級を左右することも多い
歯の治療でも説明したように、歯の治療方針が後遺障害の等級を左右することがあります。
しかし、実際に治療を受ける際には後遺障害の等級を考慮するのは難しいです。そこで、治療法の選択に関しては、自賠責認定基準に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。
重要なのは受傷前の状況を示す資料
折れた歯が後遺障害に認定されるためには、受傷前の状況を示す資料が最も重要です。資料とは、一般の歯科医院で作成されるカルテ、レントゲン写真、口腔内写真などです。
最近では、口腔内写真を撮影する歯科医院が増えてきました。口腔内写真は、レントゲン写真やカルテと合わせて使用することで、具体的な歯の状態を把握し、交通事故による影響を評価することができます。
歯の治療だけでなく歯茎や歯槽骨などの情報も含まれるので適切な治療方法を検討でき、また後遺障害認定に必要な歯の数を正確に算出することができます。
審美目的の治療は要注意
折れた歯の後遺障害認定では、審美目的の治療は該当しない場合があります。治療方法を選ぶ際には、審美的な要素の強い治療法には注意が必要です。
<参考>
【日経メディカル】歯科医の治療方針で慰謝料が大きく変わる?!
交通事故で歯が折れた時のまとめ
交通事故で折れた歯の治療費は自賠責保険から支払われます。また、虫歯の治療と同じように健康保険も使えます。仕事中の交通事故であれば労災保険を使えるケースもあります。
交通事故などで歯に外力が加わると後遺障害が残ることがあります。歯の治療方針が後遺障害の等級を左右することもあるため、自賠責認定基準に詳しい弁護士の相談がおすすめです。
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