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労働能力喪失期間・率の争いが多発
最近、弊社には自賠責や労災で後遺障害等級を取得したものの、労働能力喪失期間や労働能力喪失率について争いになっている事案の件数が増えています。単に、偶然の結果としてこのような相談事案が増えているだけかもしれません。
しかし、内容を精査すると、臨床的に考えて重症で後遺障害が永続すると思われる事案であっても、積極的に労働能力喪失期間は短く、そして労働能力喪失率は低く主張する事案が目立ちます。
このように記載すると、損害保険会社はけしからん!というように思う方が多いでしょうが、実際にはそうとも限らないと感じています。その理由は、そもそも医学的に労働能力喪失期間や労働能力喪失率を論じることはできないからです。
ここで言う「 医学的に 」とは、エビデンスに基づいて科学的に算出された労働能力喪失期間であり、労働能力喪失率であるか否かという意味です。もちろん、現在頻用されているのは、医学的には何の根拠も無い数字です。
そのような研究がなされることは無いですし、臨床的には無意味なことです。なぜなら、医学とは疾病や傷病を治すことが目的の学問体系なので、労働能力喪失期間や労働能力喪失率を算出する理由がないからです。
このため、労働能力喪失期間や労働能力喪失率について意見を求められても、臨床医の立場では困ります。そのような教育を受けたことは無いし、そのようなことを考えて臨床に携わることも無いからです。
その結果、ひとつの後遺障害をみても、医師によって労働能力喪失期間や労働能力喪失率の判断はまちまちとなるのが現実です。このため、医学的に何の根拠も無い数字が独り歩きしてしまい争いの元になるのです。
つまり、 損害保険会社が主張する労働能力喪失期間や労働能力喪失率も、弁護士が主張する労働能力喪失期間や労働能力喪失率も、両者とも一理あることがほとんどです。
おそらく、本当に全国的に労働能力喪失期間や労働能力喪失率に関する争いが増加しているのであれば、それは損害保険会社の方針変更によるものでしょう。しかし、本質的にはこれらの数字に科学的根拠は無く、数字が独り歩きしていることがベースにあると考えています。