上腕骨骨折は、転倒や交通事故などで起こりやすい骨折の一つです。適切な治療を行わないと、痛みが長引いたり、関節の可動域が制限されたりする可能性があります。
そのため、早期の診断と適切な固定が重要です。特に、保存療法では、三角巾とバストバンドを組み合わせた「簡易デゾー固定」が効果的です。この方法は、肩や腕を安定させて、骨の自然治癒を促します。
本記事では、上腕骨骨折の基本知識から、三角巾+バストバンドを用いた具体的な固定方法、さらには固定期間やリハビリのポイントまで詳しく解説しています。
最終更新日: 2025/3/7
Table of Contents
上腕骨骨折の基本知識
上腕骨骨折の原因と種類
上腕骨骨折は、主に以下の原因や種類に分類されます。
上腕骨近位端骨折
肩に近い部分の骨折で、高齢者が転倒して肩を強打した際に多く見られます。
上腕骨骨幹部骨折
上腕の中央部分の骨折で、直接的な強い外力が加わった際に発生します。
上腕骨顆上骨折
肘に近い部分の骨折で、特に子供が転倒して手をついた際に多く見られます。
診断方法と受診のタイミング
上腕骨骨折が疑われる場合、早急な診断と適切な治療が重要です。以下の症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 痛みと腫れ:骨折部位に強い痛みと腫れが生じます
- 変形や不安定性:腕の変形や不安定性が見られるケースがあります
- 神経・血管損傷の兆候:手や指のしびれ、冷感、血色不良など
上腕骨骨折の治療法
治療法は、骨折の種類や重症度、患者の年齢や活動レベルなどにより異なります。一般的な治療法として、以下の方法があります。
保存療法
骨折のずれが少ないと、ギプスやシーネで固定して自然治癒を促します。
手術療法
骨折のずれが大きい場合や不安定な場合、手術による整復や内固定が必要となることがあります。
上腕骨骨折の三角巾+バストバンド固定の実際
三角巾+バストバンド固定(簡易デゾー固定)とは
三角巾とバストバンドを組み合わせた固定法で、主に上腕骨近位端骨折の保存療法として使用されます。
適応は上腕骨近位端骨折の保存療法
上腕骨近位端骨折で、骨の転位が少ない場合や手術を避けたい場合に、三角巾とバストバンドを用いた保存療法が適応されます。
三角巾+バストバンド固定の方法
1. 肌着の上から装着
患者は肌着の上からバストバンドを装着し、骨折部位を安定させます。
2. 三角巾を装着
三角巾を用いて、腕を適切な位置に固定します。
3. 三角巾の上からバストバンドを装着
三角巾で固定した上からバストバンドを巻き、さらなる安定性を提供します。
4. 上下のテープの間から前腕を出す
バストバンドの上下のテープ間から前腕を出して、適切な位置で固定します。
バストバンドの固定期間はどれくらい?
上腕骨近位端骨折では、バストバンド固定は2〜3週間行われます。バストバンド固定終了後は、しばらく三角巾のみ装着します。
上腕骨骨折で考えられる後遺障害
機能障害(肩関節の可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、上腕骨近位端骨折です。上腕骨近位端骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
その理由は、上腕骨近位端骨折は関節内もしくは関節近傍の骨折だからです。一般的に関節内骨折や関節近傍の骨折は、可動域制限を残しやすいと言われています。
臨床的には、人工骨頭置換術後に肩関節の可動域制限を残す症例が多いです。外転90度に満たない症例も珍しくありません。
<参考>
関節可動域制限の評価と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
- 人工骨頭置換術により人工骨頭を挿入したもの
臨床的には、高齢者や上腕骨近端骨折で骨折部の粉砕が強い人は、肩関節の可動域制限を残しやすいです。
一方、人工骨頭置換術が施行された場合には、肩関節の可動域制限の有無にかかわらず、最低でも10級10号に該当します。
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
比較的軽度の骨のずれ(転位)であっても、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。10級10号と同様に、高齢者や骨折の粉砕が強い症例は、肩関節の可動域制限を残しやすいです。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
神経障害(肩関節の痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号: 局部に頑固な神経症状を残すもの
骨折部が骨癒合しても、関節の可動域制限と一緒に肩関節の痛みが残存しやすいです。また上腕骨頭の骨折で関節面の不整を残して骨癒合したなど、明らかな痛みの原因を認める症例も散見します。
14級9号: 局部に神経症状を残すもの
12級13号には至らない程度の骨折の変形では、14級9号に認定される症例が多いです。
変形障害(偽関節や変形治癒)
等級 | 認定基準 |
7級9号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
8級8号: 1上肢に偽関節を残すもの
高齢者の上腕骨近位端骨折で保存療法が選択された場合、最終的に骨折部が偽関節になる場合があります。上腕骨近位端骨折は骨幹端部の骨折が多いです。
自賠責保険では、骨幹端部は骨幹部等に分類されます。このため、上腕骨近位端骨折が偽関節になると8級8号に認定される可能性があります。
尚、上腕骨近位端骨折では偽関節になったとしても常に硬性補装具が必要になる症例はほとんどありません。このため、7級9号に認定されることはほとんど無いといえます。
12級8号: 長管骨に変形を残すもの
上腕骨大結節が中枢側に大きく転位した症例は比較的良くみられます。一方、上腕骨骨幹部骨折でときどき見かける上腕骨の直径が2/3以下に減少したものは、上腕骨近位端骨折ではほとんど存在しません。
また、上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合したものもほとんど存在しません。
上腕骨骨折の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
上腕骨近位端骨折において、後遺障害に関する争いが起こりやすいのは、肩の動きに制限が残る場合です。
後遺障害診断書では、肩の可動域が健側と比べて2分の1以下や4分の3以下に制限されていても、骨折の変形が軽いと後遺障害に認定されないケースが多いです。
治療経過や骨折のタイプに基づいて可動域制限が残る理由を説明する医師意見書を提出することで、後遺障害認定される可能性もあります。
<参考>
【日経メディカル】意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
後遺障害等級の認定事例(10級10号が認定されました)
- 被害者:42歳
- 初回申請:14級9号
- 異議申立て:10級10号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの)
コメント
著明な可動域制限を残しているものの、神経障害の14級9号しか認定されませんでした。CTで上腕骨大結節部が約10㎜の転位を残して骨癒合していました。
可動域制限の原因となることを主張した意見書を添付して異議申立てしたところ10級10号が認定されました。
上腕骨骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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上腕骨骨折で請求できる損害賠償金
上腕骨骨折で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
上腕骨骨折の三角巾+バストバンド固定でよくある質問
上腕骨骨折でバストバンドを使用する期間
バストバンドの装着期間は、骨折の状態や治療方針によって異なります。 一般的には、転位のない骨折の場合、3週間程度の固定が推奨されます。
バストバンドを装着する理由は何ですか?
バストバンドは、骨折部位の保護と安静を保つために使用されます。 装着することで、患部の動きを制限し、痛みを軽減し、骨の癒合を促進します。
寝るときのバストバンドの取り扱い
一般的には、寝るときも装着を続けることで、骨折部位の安定性を保ちますが、個々の状態によって異なるため、具体的な医師の指示を受けることが望ましいです。
まとめ
上腕骨骨折は、肩、上腕、肘に近い部分で発生して、転倒や外的衝撃が原因です。種類には「上腕骨近位端骨折」「上腕骨骨幹部骨折」「上腕骨顆上骨折」があります。
治療法は保存療法(ギプス固定)や手術療法(骨のずれを整える)があり、症状に応じて選ばれます。
三角巾+バストバンドでの固定は、上腕骨近位端骨折に適用され、2~3週間の安静を保つために使用されます。
上腕骨骨折の後遺障害として、肩関節の可動域制限や神経障害が残る場合があり、治療経過や骨折タイプを踏まえた認定が行われます。
上腕骨骨折でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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