交通事故で発生する肩関節周囲の外傷のひとつにSLAP損傷(関節唇損傷)があります。SLAP損傷は見落としや過剰診断の多い外傷です。
本記事は、SLAP損傷の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2024/9/8
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SLAP損傷(関節唇損傷)とは
SLAP損傷(スラップ損傷)、すなわち上方肩関節唇損傷は、肩甲骨の周りについている関節唇という構造が断裂する傷病です。
SLAPとは、superior labrum anterior and posterior lesionの略です。上方関節唇(superior labrum)の前後(anterior and posterior)の損傷という訳の分からない傷病名です。
肩関節は股関節と形状が似ており、よく比較されます。
股関節は屋根側の臼蓋が大きいのに対して、肩関節は受け皿の肩甲骨が小さくなっています。そのため、肩関節は自由度が非常に大きく、人体の中で最大の可動域を持つ関節です。
逆に、可動域が大きい分、最も脱臼しやすい関節であり、簡単に脱臼しないように関節唇という構造で受け皿を広くしています。
標準整形外科学 第12版より引用
関節唇は肩甲骨の関節窩と呼ばれる部分に全周性についています。この一番上(12時の部分)が剥がれるのがSLAP損傷です。上腕二頭筋の腱がついているため、それに引っ張られて剥がれるとされます。
交通事故でのSLAP損傷の受傷機序
SLAP損傷が起こるとされるのは、一般的には野球やバレーボールなどのオーバーヘッドスポーツです。
しかし、交通事故で腕を伸ばした状態で転倒した際に、上腕骨の亜脱臼に合併して生じる場合もあります。上腕骨と関節窩の間に関節唇が挟まれた状態で損傷します。
SLAP損傷の症状
肩関節痛や引っかかり感、不安定感が主な症状となります。特に外に広げていく外転動作で関節唇が挟まり、痛みが出ます。
SLAP損傷の診断
レントゲンやCTは正常な場合が多いです。MRIで上方の関節唇と肩甲骨窩の間に関節液が入り込み、損傷した場所が白くうつります。
SLAP損傷に対する治療
基本的には保存治療でリハビリテーションを行うことになります。しかし、損傷の程度により手術が必要な場合があります。
SLAP損傷の保存療法
- 安静:まず局所の安静を図ります。
- 注射:疼痛や可動域改善目的に行います。
- リハビリテーション:肩関節の可動域訓練、筋力訓練を行い、局所の機能改善を図ります。全身機能として、下肢や体幹の改善を図り、肩関節への負荷を軽くします。
SLAP損傷の手術療法
手術は主に内視鏡で行います。しかし、高度な技術を要するため、専門の病院で治療を受けられることをお勧めします。
鏡視下デブリードマン
痛みの原因や不要となった周囲の組織(損傷した組織)を除去します。
鏡視下関節唇修復術
剥離した上方関節唇を関節窩に縫合し、上腕二頭筋長頭腱の付着部を安定化させます。同時に傷んだ腱板を修復する場合もあります。きつく縫いすぎると可動域制限が残る場合があります。
SLAP損傷の後遺症
機能障害
10級9号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。SLAP損傷でここまでの可動域制限を残すことはまずありません。
12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。
神経障害
14級9号:局所に神経症状を残すもの
棘上筋損傷を合併している場合などで該当する場合があります。
【弁護士必見】SLAP損傷の後遺障害認定ポイント
SLAP損傷は見落としが多い
SLAP損傷はMRI画像をよく見ないとわかりません。また、肩関節をメインで診療している熟練した肩関節外科医(整形外科の中のサブスペシャルティ)でないと見落とす可能性があります。
そのため、非該当と判断されても肩関節痛が残っており、よく原因を調べるとSLAP損傷が判明する事例があります。
SLAP損傷はMRIの読影結果にミスリードされるケースも多い
逆に、放射線科医師によるMRIの読影結果にミスリードされるケースも多いのがSLAP損傷の特徴です。
もともと、SLAP損傷は肩関節のスポーツ障害のひとつで、関節唇の上腕二頭筋腱起始部が剥離あるいは断裂する損傷です。
もちろん外傷を契機に発症することがあるので、交通事故や労災事故の際に併発しても不思議ではありません。
しかし、一般的には野球による繰り返しの投球動作による慢性的な微小外傷が原因となります。SALP損傷のやっかいなところは、一般の整形外科医が漠然としか理解していない点です。
このため、肩関節MRIの放射線科医師による読影で「SLAP損傷」という傷病名で返ってくると、そのまま転記してしまうことがあります。
本来なら画像だけでは確実な診断が難しいにも関わらず、放射線科医師の読影結果にミスリードされてしまうのです。実際のSLAP損傷において、身体所見が重要であることは論を俟ちません。
しかし、SLAP損傷は整形外科医の間でもメジャーとは言い難い傷病であるため、交通事故現場に混乱をもたらします。
これは、一昔前の手関節のTFCC損傷でみた風景です。まだTFCC損傷が一般的ではなかった時代に、放射線科医師の「TFCC損傷」という読影結果にミスリードされた症例が多発しました。
最近でこそ、TFCC損傷ではこのようなことは見かけなくなりましたが、肩関節のSLAP損傷においては似たような状況が散発している印象を受けます。
一般的には手をついて転倒したようなエピソードがないとSLAP損傷は発生しません。この点を念頭において、診断書にあるSLAP損傷という傷病名が本当に正しいのかを確認する必要があります。
SLAP損傷の後遺障害認定で弊社ができること
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<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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まとめ
SLAP損傷で起こりうる後遺症について述べました。SLAP損傷は診断までが難しく、一般的な病院では手術の難易度が高く、治療が難しい病気です。
しかし、リハビリで症状が改善する場合も多く、手術になる事例は少ないです。肩関節痛で非該当となった事例でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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