交通事故で発生する後遺障害のひとつに下肢の短縮障害があります。自賠責保険の実務において、下肢長はSMDという不正確な方法で測定するため争いになりやすい後遺障害です。
本記事は、脚短縮による短縮障害が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
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SMDとは
SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)は、下肢の長さの計測法のひとつです。骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。
診察台に仰向きに寝転んでもらって、足をまっすぐにして測定します。簡単に測ることができるので、SMDは整形外科で最も一般的に用いられている脚長の評価方法です。
1~2cm程度の脚長差であれば日常生活で気になることはあまりありませんが、脚長差が3cm以上あると歩き方が悪くなります。
SMDの問題点
SMDは股関節や膝関節が正常であることを前提にした脚長の計測法です。このため、下記に挙げたような問題点があります。
計測が非常に不正確(画像上での計測も含めて)
SMDは体表から計測するので正確さに欠けます。一方、単純X線像やCTなどの画像検査で計測する方法もありますが、意外なほど正確ではありません。
その理由は、上前腸骨棘や足関節の内果はなだらかな骨性隆起であるため、ポイントの取り方によって長さがかなり異なってしまいます。その気になれば、ある程度恣意的に脚長を計測できてしまうのです。
股関節や膝関節の関節拘縮の影響を受ける
股関節や膝関節が屈曲していると、実際よりも脚長が短く評価されてしまいます。実際には、少し膝関節を曲げるだけでもかなり長さに差がでてしまいます。
下肢アライメントの影響を受ける
膝関節が内反していると(いわゆるO脚)脚長は短く評価されてしまいます。
<参考>
【医師が解説】短縮障害・過成長が等級認定されるポイント|交通事故
【弁護士必見】SMDは後遺障害で被害者有利になりやすい
ここまで見てきたように、SMDで脚長差を評価することはかなり不正確な方法です。しかし、交通事故や労災事故被害者の立場では、あながちSMDも悪いものではありません。
その理由は、関節拘縮や下肢アライメントがあると脚長が短く評価されるため、被害者有利になることが多いからです。
例えば、膝関節の拘縮を少し併発するだけでも、SMDで計測すると大きな脚長差として評価されます。また、15度未満の長管骨変形であっても、SMDで計測すると大きな脚長差になることが多いです。
このように、SMDは被害者側が有利になりがちな評価法なので、保険会社は短縮障害に対して厳しい目を向けています。特に1cmや3cmを僅かに超える事案に対しては保険会社顧問医の意見書が提出される事案が多いです。
SMDは肢位や変形性膝関節症の有無によっても簡単に脚長が変化するため、1cm単位の計測が必要な自賠責保険の後遺障害認定基準にはそぐわない計測法なのです。
正確に脚長を計測する方法
では実際にどのようにして測定すれば良いのでしょうか? 最も簡単なのは、立位脚全長を撮影することです。最近はデジタル化しているため、画像上で任意の長さを計測することが可能です。
大腿骨であれば大転子先端~顆間窩を、脛骨であれば脛骨隆起~脛骨天蓋中央部を計測することで、ほぼ正確な脚長の計測が可能です。
実際の訴訟では、上記のような計測方法に加えて、長管骨の回旋や関節変形による下肢アライメントにも言及した医師意見書を提出する事案が多いです。
<参考>
【医師が解説】医師意見書が交通事故の後遺症認定で効果的な理由
まとめ
下肢の短縮障害に関する後遺障害認定基準では、「上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを健側の下肢と比較することによって等級を認定する」とされており、SMDでの測定が指定されています。
医療資源の乏しかった時代にできた後遺障害認定基準なので、SMDは時代にそぐわなくなっています。しかし認定基準は改訂されないので短縮障害をめぐる争いは絶えません。
脚長差による短縮障害でお困りの事案があれば、お問い合せからご相談ください。
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