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今週の交通事故関連の話題
弊社は中立な立場で医学的判断をしますので、交通事故被害者側・保険会社側の両方の事案を受けます。そのような経緯から一方に偏らずに事案を俯瞰しますが、ときどき相手側意見書内で「これはいただけない」と感じることがあります。
たとえば、頚髄損傷の事案で「頚椎椎間板ヘルニアと頚椎症性脊髄症を区別しないのはガイドラインに基づく診断基準から逸脱しており、一般的な診療とは言い難い」という主張がなされている意見書をみたことがあります。
意見書を記載している医師の脊椎関係の臨床経験が乏しいことは経歴からも一目瞭然なのですが、実際に診療にあたった経験豊富な脊椎脊髄専門医を批判する内容に他人事ながら失笑してしまいました。
もちろん、上記の主張は臨床現場には則しておらず、ガイドラインを故意に(?)曲解した机上の空論です。しかし、裁判官は医療のプロではないため、ガイドラインに準拠していないと主張する机上の空論を採用しかねません。
このような危惧は学会も承知しており、ほとんどのガイドライン策定の基本方針に「本ガイドラインの一部を学会方針のごとく引用し、裁判・訴訟に用いることは本ガイドラインの主旨ではない」とはっきり明記されています。
その方針に反し、ガイドラインの一文を引用して、まるで経験豊富な主治医が一般的な脊椎外科医ではないようなものの言い方を法廷に持ち込む姿勢は、ガイドラインの策定にあたり膨大な時間と労力を費やした学会関係者、あるいはより良い医療を求めて臨床研究を行い論文を作成してきた偉大な先人達に対する大きな冒涜でもあり、決して容認できる姿勢ではないと考えます。
このような医学意見書を作成する医師が存在することに衝撃を受けましたが、私たちも少し襟を正して、無意識のうちにもガイドラインを悪用することがないように注意するべきだと感じました。