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抜釘術の時期は交通事故の後遺障害等級に影響を与える|医療鑑定

交通事故で骨折してしまい、手術を受けた方は多いことでしょう。骨折の手術では、プレートやスクリューなどの骨を直接固定する金属が体内に残ることが多いです。

 

そしてこれらの金属は、手術してから半年~1年程度で体内から取り出す必要があります。金属を取り出す手術を抜釘術といいます。そして抜釘術は後遺障害等級に影響を与える可能性があるので注意が必要です。

 

本記事は、抜釘術が後遺障害等級に与える影響を理解するヒントとなるように作っています。

 

 

最終更新日:2023/7/30

 

 

抜釘術とは

 

四肢骨折の手術治療では、プレートや髄内釘などの金属製の内固定材料を使用することが多いです。これらは人間の身体にとって異物なので、用が済めば体内から取り出すことが望ましいです。

 

このため骨癒合が完成した時点で、すでに不要になった金属製の内固定材料を抜去する「抜釘術」が施行されます。

 

 

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一般の症例で抜釘術を行う時期

 

抜釘術は上肢に関しては術後6ヵ月 ~12ヵ月、下肢に関しては術後12ヵ月以降に施行します。上肢と下肢で抜釘するべき時期が異なる理由は、荷重による骨への負荷のかかり方の違いのためです。

 

一方、脊椎では抜釘しないことが多いですが、若年者で脊椎椎体間に骨移植していない事案では、術後1年程度で抜釘するケースが多いです。

 

歩行時に常に体重の負荷がかかる下肢の骨折では、骨が抜釘しても良い状態になるまで時間がかかるのです。

 

 

抜釘術のメリット

 

抜釘術のメリットには以下に挙げるものがあります。

 

  • 大腿骨や脛骨では内固定材料周囲の骨が弱くなることを防げる
  • 異物による遅発性感染を予防できる
  • 転倒などによって内固定材料周囲が骨折することを予防できる
  • 内固定材料が皮下に突出している場合には違和感が無くなる
  • 抜釘することで痛みや関節可動域が改善するケースもある

 

 

抜釘術のメリットは、長期的なものが多く、短期的には変化の無いことが多いです。唯一の例外は、抜釘することで痛みや関節可動域が改善するケースです。

 

特に、鎖骨遠位端骨折でフックプレートを使用した場合には、抜釘術は必須です。抜釘することで、痛みや可動域制限が改善するケースが多いです。

 

 

抜釘術のデメリット

 

抜釘術のデメリットには以下に挙げるものがあります。

 

  • 手術をもう一度受けなければいけない
  • 感染などの一般的な手術の合併症を併発する可能性がある
  • 抜釘してから半年~1年は骨の強度が下がる

 

 

抜釘術のデメリットは、短期的に顕在化しやすいのが実情です。メリットとデメリットを勘案して、抜釘術を受けるか否かを主治医と協議しましょう。

 

 

 

 

抜釘術しないケースも多い

 

内固定材料を用いた手術を施行すると必ず抜釘術を施行するのかというと、必ずしもそういうわけではありません。

 

その理由は、抜釘しても患者さんに短期的なメリットはあまり無いからです。むしろ、抜釘してからしばらくは再骨折する危険性が高まるため、不利益となることさえあります。

 

訴訟大国の米国では、抜釘による不利益が問題視されているため、よほど大きな問題が無い限りは抜釘術を施行しないと言われています。

 

一方、米国ほど訴訟の多くない日本では、積極的に抜釘術を施行する傾向にあります。しかし高齢者では、デメリットの方が大きいので抜釘しないことが多いです。

 

 

抜釘術と症状固定時期

 

整形外科では、抜釘術を施行してから2~4週間後を症状固定時期だと認識している医師が多いです。この長さになる理由は、創が治癒するまでの期間です。

 

もちろん、これには例外があります。例えば、鎖骨遠位端骨折術後では、フックプレートの抜釘後にリハビリテーションを1~2ヵ月実施することもあります。

 

 

医学的には抜釘術と症状固定時期は無関係

 

一般的には、抜釘術が終了してから症状固定にするケースが多いです。しかし、医学的に言って、抜釘術後を症状固定とする確たる理由があるわけではありません。

 

慣習的に抜釘術が終了した時点で症状固定することが多いですが、その理由は医療機関の手続きが簡素化するためだと思われます。

 

このため、明確な理由があれば、抜釘術とは関係無く症状固定とするケースも少なくありません。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

【弁護士必見】交通事故における抜釘術と症状固定時期

 

交通事故や労災事故において、抜釘術の時期は症状固定時期と関連があります。一般的には抜釘後に症状固定とすることが多いです。

 

このため、下肢の骨折に対して手術を施行した事案では、症状固定まで1年ほど要します。しかし臨床医の立場では、抜釘術を施行するまで症状固定しないことには少し違和感を感じます。

 

何故なら、抜釘術を行うはるか以前に、骨としての機能は平衡状態に達しているからです。

 

症状固定とは、治療を続けてもこれ以上治癒することがない時期とされています。このため、抜釘術を行う時期よりもかなり前の段階で症状固定と判断してもおかしくありません。

 

それをわざわざ抜釘術を行う時期まで症状固定しないのは、医療機関が医療費請求をする事務手続き上の問題が影響しているのかもしれません。

 

医学には症状固定という概念は存在しません。このため、臨床医は症状固定する時期についてあまり深く考えない傾向にあります。

 

しかし症状固定する時期は、自賠責保険では大きな意味を持ちます。症状固定時期が争いになる理由は、症状固定は医学的概念ではないことが大きな要因でしょう。

 

 

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【弁護士必見】抜釘すると非該当になることもある

 

そして、抜釘術は後遺障害に大きな影響を及ぼす可能性があります。例えば脊椎の破裂骨折などでは、脊椎インストゥルメンテーション手術を施行するケースが多いです。

 

脊椎インストゥルメンテーション手術では、不安定な脊椎をスクリューやロッドで内固定します。自賠責保険では、脊椎固定術が施行されると自動的に11級7号に認定されます。

 

しかし、脊椎のインストゥルメンテーションを抜釘するとどうなるのでしょうか? もし破裂骨折が完全に整復されている場合には11級7号に認定されず、14級9号や非該当になってしまいます。

 

脊椎に骨折を負うほどの重度の外傷であったにもかかわらず、手術がうまく行き過ぎたがために11級7号に認定されないのでは、被害者の立場ではたまったものではありません。

 

そしてこのような事案は若年者を中心に比較的多くみかけます。その理由は、若年者ではインストゥルメンテーションを抜釘することが多いからです。

 

最近は脊椎でも低侵襲手術が主流です。このため経皮的にインストゥルメンテーションを設置することが多いです。このような手術では脊椎後方に骨移植は行いません。

 

このため抜釘すると、脊椎固定が解除されるのです。身体の機能面から考えると、脊椎を固定しないに越したことはありません。臨床的には、脊椎後方に骨移植しないことには何の問題もないのです。

 

しかし後遺障害等級の観点から考えると、脊椎固定が解消されてしまうことは大きな問題を引き起こしてしまいます。そして主治医はこのような問題が発生することをまず知らないと考えるべきでしょう。

 

脊椎の手術後に抜釘するべきか否か、また抜釘するとすればいつ抜釘するべきなのかを、よく考えて治療方針を決定したいものですね。

 

 

<参考>
【日経メディカル】抜釘のタイミングで圧迫骨折の後遺障害の等級が変わる?

 

 

 

nikkei medical

 

 

【11級7号】抜釘術のために14級9号になった事案が等級アップ

事案サマリー

  • 被害者:60歳
  • 被害者申請:14級9号
  • 異議申立て:11級7号(脊柱に変形を残すもの)

 

バイク乗車中に自動車と衝突して受傷しました。第1腰椎脱臼骨折に対して、脊椎固定術(第12胸椎~第2腰椎)が施行されました。術後1年で脊椎インストゥルメンテーションの抜釘(異物除去術)を施行されました。

 

被害者請求では、椎体の明らかな変形を認められないことから脊柱の変形障害として評価を行うことは困難という理由で14級9号が認定されました。

 

 

L1 dislocation fracture

 

 

弊社の取り組み

脊椎間に骨移植を行っていれば、11級7号が認定されたはずです。しかし、本事案は若年者であり、隣接椎間障害を併発するリスクを避けるために骨移植は行われませんでした。

 

医学的には正しい判断ですが、自賠責保険の後遺障害等級の観点では脊柱の変形障害に該当しない不利益を被りました。

 

弊社にて画像所見を精査すると、CT検査ではL1椎体前方に椎体皮質の不整像が残っており、T12/L1椎間板は外傷により変性して、椎間板高が減少しており局所後弯が残存していました。

 

医師意見書を添付して異議申し立てしたところ、脊柱に変形を残すものとして11級7号が認定されました。

 

 

L1 vertebral fracture

 

 

まとめ

 

後遺障害の認定では、抜釘術を行う時期が後遺障害等級に大きな影響を与える可能性があります。そしてほとんどの医師は、抜釘術を行う時期が後遺障害の認定に影響を与える可能性があることを知りません。

 

特に、脊椎の手術後の抜釘時期に関しては注意が必要でしょう。交通事故で抜釘時期にお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

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