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外傷性頚部症候群は交通事故で問題になることが多い
日常診療上、交通事故で問題になるのは外傷性頚部症候群(WAD、頚椎捻挫)です。頚部に何らかの外力が加わったことが推測される受傷機転、画像上外傷性変化がないこと、自覚症状などで診断をつけるのですが、客観的根拠は画像所見のみでそれも外傷性変化がないということです。
受傷機転、自覚症状は本人の申し出になりますので、事故にあって“首が痛い”と言えばそれでWADということになります。客観的データを元に診断をつける医学の中では非常に珍しい疾患です。
そして訴えは頚部痛以外に頭痛、上肢のしびれ、めまい、耳鳴りなど多岐にわたります。これらの症状の詳しいメカニズムは解明されておらず、根治的な治療がないため、対症療法を行うことになります。
薬物治療によく反応して、時間を追うごとに軽快していく患者さんはいいのですが、薬物治療があまり効かず、1〜2ヶ月経過しても症状が軽快しない患者さんの治療には難渋します。
毎回多岐にわたる訴えを傾聴しながら、症状が変わらなくなる時期が来れば、残存した症状を“後遺障害”として受け止めていただき、症状固定を勧めていくことになります。当然のことながら、症状が取れないうちに治療が打ち切られることに納得されない患者さんも多くでてきます。
3〜6ヶ月治療をしていると保険会社から患者さん症状照会の書類が送られてきます(もしくは保険会社から面談の要請がきます)。できるだけ患者さんに不利にならないよう(保険会社から上げ足を取られないように)に内容を記入していきます。それ以降も治療を継続していると、この手の書類が症状固定まで何度も送られ続けます。
多くの整形外科の勤務医がWAD患者を歓迎しない理由が何となく分かっていただけたでしょうか。多くの医師はプロなので歓迎しないながらも態度や表情に出すことはないのですが、中には患者さんが医師の態度に不満を抱き、そのまま医師に黙って接骨院だけに通院する“事故難民”になってしまうことも多いようです。
裁判で不利になる“事故難民”を作らないためには、今一度整形外科医が患者さんの症状固定後の補償まで考え、治療を行っていく必要があると思います。
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