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肩鎖関節脱臼の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定

交通事故で発生する肩関節周囲の外傷のひとつに肩鎖関節脱臼があります。肩鎖関節脱臼は後遺症を残す可能性のある外傷です。

 

本記事は、肩鎖関節脱臼の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日: 2024/9/8

 

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肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)とは

 

肩鎖関節とは、鎖骨と肩峰(肩甲骨)の間にある関節です。肩鎖関節は、肩鎖靱帯(肩峰と鎖骨をつないでいる靭帯)、烏口鎖骨靱帯(烏口突起と鎖骨の間をつないでいる靭帯)、三角筋や僧帽筋によって安定化しています。

 

鎖骨は釣り竿の本体、肩鎖関節は釣り竿の先に例えられます。鎖骨が竿の部分の役割を果たしており、肩鎖関節を介して肩峰~上肢をぶら下げているのです。

 

このように鎖骨および肩鎖関節は、体幹から上肢を支える役割を果たしています。肩鎖関節を損傷すると、体幹が上肢を支える機能が低下します。

 

肩峰から上肢にかけての自重に耐えきれず、鎖骨に対して肩峰が下方に転位します。

 

この状況が肩鎖関節脱臼です。つまり肩鎖関節が脱臼する理由は、肩峰から上肢にかけての自重に耐えきれないからです。他の関節とは、少し脱臼の状況が異なるので注意が必要ですね。

 

 

Acromioclavicular joint dislocation

 

 

肩鎖関節脱臼の原因

 

受傷機転は、サッカー、ラクビー、柔道などの激しいコンタクトスポーツや、転倒や転落、そして交通事故などが多いです。

 

これらの外傷で肩関節を強打してしまった結果、肩鎖靱帯や烏口鎖骨靱帯、そして三角筋や僧帽筋が断裂してしまい肩鎖関節が脱臼します。

 

 

肩鎖関節脱臼の分類(Rockwood分類)

 

肩鎖関節のずれの程度で、捻挫、亜脱臼、脱臼に分類されます。整形外科医が用いる最も有名な分類は、Rockwood分類です。肩鎖関節の治療方針の決定に一役買っています。

 

Rockwood分類では、肩鎖関節のずれの程度で以下のようにType 1 から Type 6 に分類されています。

 

 

Ⅰ型(捻挫)

肩鎖靱帯の部分的な傷みだけで、レントゲン検査では異常ありません。

 

Ⅱ型(亜脱臼)

靱帯は部分的に傷んでいますが、三角筋や僧帽筋は正常です。レントゲン検査では鎖骨の端がやや上にずれています。

 

Ⅲ型(脱臼)

靱帯が完全に断裂しています。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれていることが多いです。レントゲン検査では鎖骨の端が完全に上にずれています。

 

Ⅳ型(後方脱臼)

靱帯が完全に断裂して、三角筋・僧帽筋も鎖骨の端からはずれています。鎖骨の端が後ろにずれている脱臼です。

 

Ⅴ型(高度脱臼)

Ⅲ型の中でも、より程度の強いものです。三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3から完全にはずれています。

 

Ⅵ型(下方脱臼)

鎖骨の端が下にずれている非常にまれな脱臼です。

 

 

肩鎖関節脱臼の治療

 

一般的には保存治療を行う症例が多いですが、脱臼程度の大きいRockwood分類のType 3以上では、手術療法が選択される場合もあります。

 

ただし、決定版と言える手術療法は存在せず、どの治療法を選択しても完全に受傷前の状態に治る見込みは低いです。

 

 

clavicle hook plate

 

 

肩鎖関節脱臼は全治何ヶ月?

 

保存療法の場合、肩鎖関節脱臼ではおおむね1~2ヵ月で痛みが軽快するケースが多いです。

 

鎖骨遠位端の皮膚下への膨隆は治りませんが、美容面以外は大きな後遺症を残すことは少ないです。

 

 

肩鎖関節脱臼が「ずれたまま」だとどうなる?

 

日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、肩鎖関節脱臼が「ずれたまま」だとどうなりますか? があります。

 

結論から申し上げると、日常生活で大きく困ることはありません。脱臼している部分が膨らんでいることを確認できますが、痛みを残すケースはそれほどありません。

 

しかし、後述するように後遺障害のうち変形障害に該当する可能性があります。

 

 

肩鎖関節脱臼の運転はいつから?

 

日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、肩鎖関節脱臼後の運転はいつからできますか? があります。

 

結論から申し上げると、痛みがましになる受傷後1~2ヵ月がひとつの目安となるでしょう。

 

 

肩鎖関節脱臼の運動はいつから?

 

日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、肩鎖関節脱臼後の運動はいつからできますか? があります。

 

結論から申し上げると、痛みがましになる受傷後1~2ヵ月がひとつの目安となるでしょう。

 

一方、ジョギングなどの肩鎖関節脱臼部に負荷のかからないスポーツは、受傷直後でも問題ないケースが多いです。

 

肩鎖関節脱臼の経過はさまざまです。上記で挙げた期間はあくまでも目安に過ぎません。主治医の指示に従いましょう。

 

 

upper limb

 

 

肩鎖関節脱臼の後遺障害

肩鎖関節脱臼で後遺障害に認定されうる後遺症では、変形障害、機能障害、神経障害の3つが考えられます。

 

 

変形障害

12級5号:鎖骨に著しい変形を残すもの

 

手術療法である程度骨のずれは改善するものの、完全な整復位を獲得できないケースが多いです。保存療法では受傷時の脱臼が残るため、12級5号の変形障害に該当します。

 

「鎖骨に著しい変形を残すもの」として12級5号に認定されるためには、衣服を脱いで裸の状態になったとき、明らかに鎖骨が脱臼していると分かる状態である必要があります。

 

 

機能障害

肩鎖関節脱臼における機能障害とは、肩関節の可動域制限です。しかし、肩鎖関節脱臼は肩関節と直接関係のない部位です。

 

また、臨床的にも肩鎖関節脱臼で肩関節の可動域制限を残す症例はほとんど見かけません。このため、自賠責保険で機能障害が認定される可能性は低いと思われます。

 

 

8級6号:一上肢の三大関節の一関節の用を廃したもの

 

肩関節が強直またはこれに近い状態にあるものです。これに近い状態とは、自動(自分で動かすこと)で健側(ケガをしていない側)の可動域の10%程度以下に制限された状態です。肩鎖関節脱臼では考えにくい後遺障害等級です。

 

<参考>
【医師が解説】自動運動と他動運動の違いで後遺障害に差も|交通事故

 

 

10級10号:一上肢の三大関節の一関節の機能に著しい障害を残すもの

 

肩関節の関節運動が、健側の1/2以下の可動域に制限されているものです。クラビクルフックプレートを使用した手術療法を選択した場合には、認定される可能性が僅かにあります。

 

 

12級6号:一上肢の三大関節の一関節の機能に障害を残すもの

 

肩関節の関節運動が、健側の3/4以下の可動域に制限されているものです。クラビクルフックプレートを使用した手術療法を選択した場合には認定される可能性があります。

 

 

神経障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

クラビクルフックプレートを使用した手術療法を選択した場合には、認定される可能性が僅かにあります。

 

 

14級9号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

クラビクルフックプレートを使用した手術を受けた場合、必ずといっていいほど出現するのが鎖骨上神経障害です。手術によって鎖骨上神経が切断されるため、手術痕の足側に感覚障害を起こす症例を多く経験します。

 

しかし、患者さん本人が自覚されていない場合があり、見逃されやすい障害です。症状がある場合には、「局所に神経症状を残すもの」として第14級9号が認定されるケースが多いです。

 

保存療法を選択した場合であっても、14級9号に認定される可能性はゼロではないと考えます。

 

 

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【弁護士必見】肩鎖関節脱臼の後遺障害認定ポイント

変形障害の12級5号が最も多い

肩鎖関節脱臼でもっとも多くみられる後遺症は変形障害です。この場合の変形障害とは、裸体になったときに皮膚の上から鎖骨遠位端が飛び出している状態を指します。

 

Rockwood分類で Type 3以上の転位が残存している症例では、肩鎖関節周囲には筋肉が少ないため、かなり派手に鎖骨遠位端が皮膚上に突出してしまいます。

 

服の上からは分かりにくいかもしれませんが、裸体になると肩鎖関節脱臼の存在は一目瞭然です。

 

このため交通事故の自賠責保険においても、Rockwood分類で Type 3以上の転位が残存している症例では、肩鎖関節の変形障害として12級5号に認定されるケースが多いです。

 

一方、Rockwood分類の Type 2や Type 1の場合はどうなのかと言うと、この程度の脱臼では変形障害が認められない可能性が高いです。その理由は体表からは左右差が分からない程度の変形に留まるからです。

 

 

神経障害の14級9号の可能性もある

Rockwood分類で Type 2や Type 1の転位が残存している症例では、変形障害が認定されないケースが多いです。

 

それでは、これらの事案では後遺障害がまったく認定されずに非該当になるのかと言うとそうとも限りません。

 

肩鎖関節では激しい痛みが残存するケースは少ないですが、肩関節より上に上肢を挙上する際の鈍痛を訴える人が多いです。

 

このような肩鎖関節脱臼に疼痛を残した事案では、神経障害の14級9号に認定される可能性があります。Rockwood分類で Type 2では、単純X線像ではっきりと脱臼をしてきできるので12級13号に認定されそうですね。

 

しかし実際には、弊社の経験でも12級13号ではなく14級9号に留まる印象を受けます。

 

 

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肩関節機能障害の12級6号は難しい

それでは肩関節機能障害はどうでしょうか? 肩鎖関節脱臼そのものでは、肩関節機能障害をきたしにくいです。

 

特に、外固定もせず保存的に経過観察した若年者の症例では、あまり肩関節拘縮をきたさない印象を受けています。

 

一方、中高年では話が異なります。外傷性の肩関節周囲炎を併発してしまい、肩関節の可動域制限を残してしまう人が多いのです。

 

中高年に関しては、肩鎖関節脱臼に限らず鎖骨骨折や腱板断裂などの外傷によっても、すぐに肩関節可動域制限を併発してしまいます。

 

肩関節の可動域制限をきたしてしまうと、リハビリテーションを頑張ってもなかなか元通りには動きません。

 

このため、肩鎖関節脱臼後の肩関節機能障害は簡単に認定されそうに思えます。しかし実際には、肩関節機能障害で後遺障害等級が認定される事案はさほど多くありません。

 

医師の間では、肩鎖関節脱臼では肩関節の可動域制限を残しにくいというコンセンサスがあります。

 

このため、審査側も肩鎖関節脱臼では肩関節の可動域制限を残さないという判断をするのでしょう。そしてこの判断は、若年者においては間違いではないと考えます。

 

一方、中高年の肩鎖関節脱臼では、前述したように外傷性の肩関節周囲炎を併発してしまい、可動域制限が残る事案をよくみかけます。しかし審査側は、若年者も中高年も一括して判断している可能性があります。

 

少なくとも被害者請求段階で、関節機能障害として12級6号に認定されたケースはあまり見たことがありません。被害者が中高年であれば異議申立てする価値はあると考えます。

 

 

寝た状態でレントゲン撮影すると肩鎖関節脱臼が消える?!

肩鎖関節脱臼では、レントゲン検査を実施する際に臥位(寝た状態)で撮影すると、ときどき肩鎖関節脱臼が無くなる場合があります。

 

その理由は、肩鎖関節脱臼は腕などの上肢の重さに引っ張られて肩甲骨全体が下に沈むことで発症するからです。

 

寝た状態では上肢の重さがキャンセルされるため、肩鎖関節脱臼が自然整復されてしまう可能性があるのです。

 

このような場合には、座った状態もしくは立った状態でレントゲン検査を実施してもらいましょう。

 

肩鎖関節脱臼でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

 

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【12級5号】肩鎖関節脱臼の後遺障害認定事例

事案サマリー

  • 被害者:42歳
  • 初回申請:非該当
  • 異議申し立て:12級5号

 

 

弊社の取り組み

被害者請求で非該当だったため、顧問先の法律事務所様から相談がありました。患側のみでは肩鎖関節脱臼の程度が分かりにくかったため、両肩を含んだマクロ画像を添付して申請したところ、12級5号が認定されました。

 

 

肩鎖関節脱臼の後遺障害認定で弊社ができること

弁護士の方へ

弊社では、交通事故による肩鎖関節脱臼の後遺症が後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。

 

 

等級スクリーニング

 

現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。

 

等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。

 

等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。

 

 

<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定

 

 

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医師意見書

 
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。

 

医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。

 

医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。

 

弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。

 

 

<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て

 

 

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画像鑑定報告書

 

交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。

 

画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。

 

画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。

 

弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。

 

 

<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て

 

 

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交通事故による肩鎖関節脱臼の後遺症でお悩みの被害者の方へ

弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。

 

また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。

 

もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。

 

尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。

 

 

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