交通事故や転倒などで起こる骨盤骨折は、身体の中心部に大きな衝撃を受ける深刻なケガであり、治療や回復には長い時間を要することがあります。
特に、治療法や回復期間は骨折の重症度や治療内容によって大きく異なるため、全治までの見通しを知ることは、今後の生活設計や仕事復帰の計画を立てるうえで非常に重要です。
また、骨盤骨折はリハビリの進め方次第で、生活の質や後遺症のリスクにも影響します。
本記事では、骨盤骨折の基本的な分類や治療法の違い、全治までの平均的な期間、後遺症の可能性、社会復帰までの具体的なステップまでを分かりやすく解説しています。
骨盤骨折からのポジティブな回復をめざす方に向けて、正確で実用的な医療情報をお届けします。
最終更新日: 2025/7/16
Table of Contents
骨盤骨折とは
骨盤骨折の概要と全治の目安
骨盤骨折は、腸骨・恥骨・坐骨・仙骨など骨盤を構成する骨に生じる骨折です。
交通事故や高所からの転落など強い外力によるものが多く、骨盤内臓器や血管への損傷を伴うこともあります。
全治の目安は骨折の種類や重症度によって異なり、軽症の場合は約3ヶ月、重症では6ヶ月以上かかるケースもあります。
骨盤骨折の主な分類(安定型・不安定型など)
骨盤骨折は主に「安定型」と「不安定型」に分類されます。安定型は骨盤輪の構造が保たれている単純な骨折で、ズレが少なく保存療法が適応されやすいです。
不安定型は骨盤輪の前後両方に損傷があり、骨盤の安定性が失われている状態で、重症例が多く手術が必要となることが多いです。
保存療法と手術療法の違い
保存療法は主に安定型骨折に適用され、ベッド上安静や牽引などで骨の自然癒合を待ちます。
手術療法は不安定型や骨のズレが大きい場合に行われ、金属プレートやスクリューによる骨の固定や、外固定器を用いた整復が行われます。
保存療法は侵襲が少ない反面、手術療法は早期回復や重篤な合併症予防に有効です。
各治療法の選択基準と治療の流れ
治療法の選択は骨折の安定性や骨のズレの大きさ、患者の全身状態によって決まります。
安定型で骨のズレが小さい場合は保存療法、ズレが大きい場合や不安定型では手術療法が選択されます。
治療の流れは、初期治療で全身管理と骨折部位の固定を行い、その後リハビリを開始して、段階的に社会復帰を目指します。
骨盤骨折の全治期間と社会復帰までの道のり
一般的な全治期間の目安
骨盤骨折の全治期間は、骨折の種類や重症度によって大きく異なります。軽症の安定型骨折であれば、約3ヶ月で骨の癒合や歩行の回復が期待できます。
一方、不安定型や手術が必要な重症例では、6ヶ月以上かかることもあり、場合によっては1年以上治療やリハビリが続くケースもあります。
入院・安静・リハビリの期間と段階的な回復プロセス
骨盤骨折の治療は、まず2週間程度のベッド上安静から始まります。その後、骨の癒合状態を確認しつつ、車椅子や松葉杖を使った移動練習、部分荷重から全荷重への歩行訓練へと進みます。
リハビリ期間は3~6ヶ月が一般的で、退院後も外来リハビリを継続して、筋力やバランスの回復を目指します。重症例では回復期リハビリテーション病棟で最大90日まで入院が可能です。
歩行や運転、職場復帰のタイミング
歩行の再開は、骨の癒合が進み医師の許可が出てから部分荷重で始め、4~8週間で本格的な歩行練習が可能となります。日常的な歩行が可能になるのは多くの場合6ヶ月程度です。
運転や職場復帰は、歩行が安定し痛みや可動域制限が改善してからとなり、デスクワークは2~3ヶ月、立ち仕事や重労働は4~6ヶ月以上かかることもあります。
復帰時期は職種や個人の回復力によって異なり、主治医と十分に相談して決定することが重要です。
骨盤骨折後に残りやすい後遺症
骨盤骨折は、骨盤周囲の神経や臓器、関節に影響を及ぼすため、治療後もさまざまな後遺症が残ることがあります。代表的な後遺症には以下のものが挙げられます。
神経症状(痛み・しびれ)
骨折部位やその周囲の神経が損傷されることで、慢性的な痛みやしびれ、違和感が残る場合があります。
特に仙骨や腸骨の骨折では、下肢のしびれや筋力低下、排尿・排便障害などの神経障害が生じやすいとされています。
運動障害(股関節の可動域制限)
股関節の動きが制限され、歩行や日常動作が困難になることがあります。可動域制限は重症例や関節内骨折で特に起こりやすく、長期的なリハビリが必要となることもあります。
変形障害(骨盤の変形)
骨折部が正しく癒合しないと、骨盤が変形したまま治癒し、歩行時に痛みや違和感を生じることがあります。外見や機能面での影響も無視できません。
下肢の短縮障害
骨盤のゆがみにより、左右の脚の長さに差が生じることがあります。これにより歩行バランスが崩れ、腰や膝に負担がかかることもあります。
正常分娩困難
骨盤の変形や癒合不全により、特に女性の場合は産道が狭くなり、自然分娩が困難になるケースも報告されています。
内臓損傷の後遺症
骨盤内の臓器(膀胱・直腸・生殖器など)が損傷された場合、排尿・排便障害や生殖機能障害が残ることがあります。
骨盤骨折の後遺症で考えられる後遺障害
交通事故や労災事故で受傷した骨盤骨折に後遺症が残れば、以下のような後遺障害に認定される可能性があります。
股関節の機能障害
等級 | 認定基準 |
8級7号 | 下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級7号:下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
下記のいずれかの条件を満たすと、8級7号に該当することになります。
- 関節が強直したもの
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
- 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。
12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。
神経障害
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
寛骨臼骨折後の股関節部痛や坐骨神経損傷による麻痺症状を、画像検査や神経伝導速度検査で他覚的所見に証明できる事案が該当します。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
画像検査で変形性股関節症の所見や、神経伝導速度検査で坐骨神経損傷の所見を認めないものの、治療経過から神経症状の存在が推認される事案が該当します。
変形障害
12級5号:骨盤骨に著しい変形を残すもの
骨盤骨折は変形を残しやすい骨折です。しかし自賠責認定基準で変形障害に該当するためには「裸体になったときに外部から見てその変形が明らかに分かる程度」という条件をクリアする必要があります。
胸腹部臓器の機能障害
11級10号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
骨盤骨折は変形を残しやすい骨折なので、小骨盤腔が変形すると経腟分娩が不可能になることもあります。交通事故被害者が若年女性の場合には、産婦人科医師の診察も必要でしょう。
骨盤骨折の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
骨盤骨折に伴う後遺症は種類が多く、整形外科だけでなく、泌尿器科、婦人科、消化器外科など複数の診療科の連携が必要になることも珍しくありません。
そのため、一つの専門分野だけに注目してしまうと、他の重要な障害を見落として、正当な補償が受けられない恐れがあります。後遺障害を正しく評価するには、多角的な視点が不可欠です。
特に寛骨臼骨折の場合は、股関節外科の専門医の意見を取り入れることが重要です。なぜなら、手術経験の有無によって、損傷の見極めや診断の正確さに大きな差が出るからです。
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骨盤骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
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医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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骨盤骨折の全治期間でよくある質問
骨盤骨折になると歩けなくなりますか?
骨盤骨折の重症度や部位によって異なりますが、重度の骨折や不安定型の場合は強い痛みや骨盤の安定性低下により、一時的に歩行が困難になることがあります。
ただし、適切な治療とリハビリを行えば、多くの場合は徐々に歩行能力を回復できます。軽症例では短期間の安静後、松葉杖や歩行器を使って歩行練習を開始することが一般的です。
骨折は最大で何ヶ月で全治しますか?
骨盤骨折の全治期間は、骨折の種類や治療法によって大きく異なります。軽症の安定型骨折では約3ヶ月で回復することが多いです。
一方、不安定型や手術を要する重症例では6ヶ月以上、場合によっては1年以上かかることもあります。リハビリや再手術が必要な場合はさらに期間が延びることもあります。
骨盤骨折の入院日数は?
骨盤骨折の入院期間は、急性期治療とリハビリテーションの合計で数週間から数ヶ月に及びます。
急性期病院での治療後、回復期リハビリテーション病棟で最大90日まで入院できるケースが一般的です。
実際の入院日数は患者の状態や治療内容によって異なり、平均すると2~6ヶ月程度が目安とされています。
骨盤骨折の死亡率は?
骨盤骨折の死亡率は、骨折の型や合併症の有無、患者の年齢や全身状態によって異なります。
安定型骨折では予後が良好ですが、不安定型骨折や出血・内臓損傷を伴う場合は死亡率が高くなり、約5~15%とされています。
特に重症例や高齢者、低血圧を伴う場合は死亡リスクがさらに上昇します。
まとめ
骨盤骨折は、交通事故や転落などによって骨盤を構成する骨が折れる重傷で、治療や回復には長期間を要することがあります。
骨折の安定性やズレの程度により「安定型」と「不安定型」に分類され、治療法も保存療法と手術療法に分かれます。
全治の目安は、軽症で約3ヶ月、重症では6ヶ月以上かかることもあり、入院やリハビリを含めた段階的な回復が必要です。
後遺症が残る場合もあり、適切な治療と評価が重要です。骨盤骨折の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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