交通事故で発生する障害のひとつにPTSD(心的外傷後ストレス障害)があります。PTSDは争いになりやすい後遺障害です。
本記事は、PTSDの後遺症が後遺障害に等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
Table of Contents
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder: 心的外傷後ストレス障害)とは、命の危険を感じる状況に遭遇した後に、自分の意志とは関係なく、その場面を思い出したり悪夢を見ることが続く状態です。
恐怖体験のフラッシュバックや悪夢が続くことによって不安や緊張が高まり、その辛さのために現実感が無くなるケースも多いです。
PTSDの症状
自分の意志とは関係なく辛い記憶を思い出す
交通事故から時間が経過して普通に日常生活を送っていても、突如として交通事故の恐怖体験を思い出します。一度だけではなく何度も繰り返すケースが多いです。
その際には、恐怖だけでなく、苦痛、怒り、哀しみ、無力感といった感情と共に、もう一度交通事故に遭ったかのように生々しく思い出すことさえあります。
常に精神的に緊張している
交通事故の記憶を思い出していない時でも、常に気が張りつめているためイライラしています。
小さなことにも驚きやすくなり、極端に警戒心が強くなります。また、不眠などの症状を訴えるケースが多いです。
無意識のうちに思い出す状況を避ける
何度も交通事故を思い出すうちに、そうした記憶がよみがえるきっかけを避けるようになります。記憶がよみがえるきっかけは、本人が意識していない場合もあります。
無意識のうちに交通事故の記憶を思い出す状況を避けるようになるため、日常生活が制限されてしまい社会生活を送れなくなるケースも少なくありません。
感覚が麻痺する
交通事故の記憶で苦しむことを避けるために、感情や感覚が麻痺してしまうこともあります。
身近な人に対しても、受傷前のような愛情や優しさなどの感情を抱けなくなったり、心を許すこともできなくなるケースが多いです。
辛い症状が続いて治らない
これまで挙げたような症状がいつまでも続いたり、むしろ悪化する傾向さえあります。
PTSDで後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる
PTSDで後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
PTSDで考えられる後遺障害
自賠責認定基準
自賠責保険では、厚生労働省労働基準局の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」に準じて等級認定されます。
神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について
下記の(ア)精神症状のうちひとつ以上が認められ、かつ、イ)能力に関する判断項目のうち、ひとつ以上の能力について障害(能力の欠如や低下)が認められることが必要となります。
(ア)精神症状
- 抑うつ状態
- 不安の状態
- 意欲低下の状態
- 慢性化した厳格・妄想性の状態
- 記憶または知的能力の障害
- その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
(イ)能力に関する判断項目
- 身辺日常生活
- 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
- 通勤・勤務時間の厳守
- 普通に作業を持続すること
- 他人との意思伝達
- 対人関係・協調性
- 身辺の安全保持、危機の回避
- 困難・失敗への対応
「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」をいくつ満たすのかによって、9級10号から14級9号までの等級が認定されます。
9級10号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の(2)~(8)のいずれかひとつの能力が失われているもの
- または、(イ)の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、ときに助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの
12級13号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため多少の障害を残すもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の4つ以上について,ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、適切または概ねできるもの
14級9号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため軽微な障害を残すもの
【具体例】
(イ)のひとつ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
【弁護士必見】PTSDの後遺障害認定ポイント
PTSDの等級認定は難しい
PTSDは、基本的に治癒する傷病と考えられています。また、症状の存在を客観的に証明することが難しいです。このため、自賠責保険で後遺障害等級認定されるためのハードルは極めて高いです。
PTSDとして後遺障害が等級認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医による治療が1年以上必要です。実臨床においても、PTSDなどの精神疾患の治療期間は長期化する傾向にあります。
後遺障害診断書では、PTSDという傷病名が整形外科医や内科医師(開業医)によってつけられています。しかし、精神科ではない医師が作成した後遺障害診断書は、自賠責保険では重要視されません。
実務的に、PTSDで後遺障害が等級認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医の治療を1年以上受ける必要があります。通常の6ヵ月では後遺障害に認定されないことに注意が必要です。
頭部外傷後のPTSDは高次脳機能障害と類似した病態
PTSDで最も問題になるのは、頭部外傷後に発症する事案です。自賠責保険の審査では、通常の心的ストレスによるPTSDと、頭部外傷に併発したPTSDを分けて考える必要があります。
一般的には高次脳機能障害の自賠責認定基準は、下記3要件のすべてを満たす必要があるといわれています。
- 適切な傷病名
- 意識障害期間
- 画像所見
適切な傷病名(脳挫傷や脳出血など)や、画像所見(脳挫傷痕や脳萎縮など)の2要件しか満たしていない事案は、MTBI(Mild Traumatic Brain Injury; 軽度外傷性脳損傷 )に分類されます。自賠責保険では、意識障害期間の基準を満たさないと、高次脳機能障害に認定されにくいのです。
そして、脳挫傷や脳出血など適切な傷病名の1要件しか満たさない事案は、明らかな高次脳機能障害の症状が残存していても、自賠責保険では高次脳機能障害として等級認定されません。
自賠責保険の実務では、意識障害期間が足りなく画像所見も認めない事案は、PTSD(非器質性精神障害)として後遺障害の等級認定を目指すことなります。高次脳機能障害では非該当になってしまうのです
実臨床では精神科医師が治療していることが多いです。精神科医師か脳神経外科医師のどちらが治療するのかは議論のあるところです。
一方、自賠責保険の実務では、3要件のどの項目を満たしているのかを確認して、精神科医師か脳神経外科医師のいずれの医師意見書を作成するのが望ましいかを判断することになります。
尚、上記の高次脳機能障害、MTBI、PTSD(非器質性精神障害)の基準は、あくまでも自賠責保険上の後遺障害認定基準に過ぎません。実臨床の基準ではないことに留意が必要です。
<参考>
PTSDの後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故によるPTSDが後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
交通事故によるPTSDでお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
PTSDの後遺障害認定のまとめ
交通事故で発生する障害のひとつにPTSD(心的外傷後ストレス障害)があります。
PTSDは、基本的に治癒する傷病と考えられています。このため、自賠責保険で後遺障害等級認定されるためのハードルは極めて高いです。
PTSDとして後遺障害等級が認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医による治療が1年以上必要です。
PTSDでお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。