交通事故で残った後遺障害の等級認定では、医師が作成する診断書が極めて大きな影響力を持ちます。
このため、どのような記載内容の診断書が作成されるのかはとても重要です。しかし、医師に診断書の作成を依頼しても書いてくれない場合があります。
また、後遺障害認定の観点では、被害者のためになる記載内容の診断書ではないことも少なくありません。
本記事は、医師に診断書の作成依頼をしてトラブルに遭った場合のヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
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医師が診断書を書いてくれない理由
医師は医師法第十九条二項の法規定によって、患者さんから診断書の作成依頼があった場合には、診断書を発行する義務があります。
しかし実際には、後遺障害診断書を始めとするさまざまな診断書において、主治医が診断書作成を拒否するケースに事欠きません。
これまでの私の経験を振り返って、交通事故の診断書作成をお断りしたケースをご紹介します。
初めての受診が症状固定時
少し前までは比較的よく見かけるパターンでした。遠方の救急病院を受診した後、近くの接骨院に通い続けて、症状固定の段階になって初めて医療機関を受診するケースです。
このような事案では医療機関の紹介状が無いため、交通事故の受傷日を確かめる術さえありません。そもそも本当に交通事故で受傷したのかも疑わしいケースも存在します。
初診時に交通事故であることを申告していない
ありがちなパターンとしては「いつの間にか骨折」として治療していた高齢患者さんが、最後になって交通事故の後遺障害診断書の作成依頼をするケースです。
初診時には骨折の原因が明確でなかったにもかかわらず、治療終了時になって受傷原因が交通事故であると主張されると、さすがに診断書作成をお断りせざるを得ません。
<参考>
【日経メディカル】「いつの間にか骨折」悪化と判断され慰謝料が減額?!
受診歴が初診時と症状固定時のみ
少し前まで、このパターンも非常に多かったです。医療機関には初診時と症状固定時にしか通院しません。その間は、ひたすら接骨院に通い続けます。
最近では、接骨院にしか通っていない事案は、保険会社から任意一括対応を早期に打ち切りされます。このため、初診時と症状固定時にしか医療機関を受診しない患者さんは減少しました。
しかし、これまでの悪しきイメージが色濃く残っているため、初診時と症状固定時のみの事案や、症状固定時に初めて受診する事案では、後遺障害診断書の作成をお断りするケースが多いです。
これらに共通した診断書作成をお断りする理由は下記のとおりです。
- 交通事故直後の患者さんの状態を把握できていないため、責任をもって診断書を書けない
- 患者さんの申告のみで診断書を作成すると、虚偽記載になる可能性を否定できない
医師の立場では、これまでの経過を全く知らない患者さんの診断書を安易に作成すると、思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれない恐怖感があります。この点が診断書作成をお断りする際の率直な気持ちです。
専門外の事案
開業医は外科、内科、整形外科などすべての科を診療科に掲げているケースが多いです。しかし実際には、専門の診療科があります。
整形外科が最初の診療科になっていない場合は、外科や内科出身の医師であることが多いです。
このような診療所では、複雑な事案の後遺障害診断書を作成することが難しいことが多いです。
医師自身もこのことを自覚しているため、専門外の事案では後遺障害診断書の作成を拒否するケースを散見します。
また、交通事故とは少し離れますが、成年後見制度における診断書作成を依頼されることがときどきあります。通常は、認知症診療に精通した心療内科医師や精神科医師が担当します。
しかし、かかりつけ医の居ない患者さんが転倒して骨折した場合、専門外の整形外科医にもかかわらず、成年後見制度における診断書を依頼されるケースがあります。
定期的に外来通院していた人であれば、専門外といえども作成することもあります。しかし一般的には専門外の診断書作成は難しいと思ってよいでしょう。
医師が診断書の修正や追記に応じない理由
弊社では等級認定サポートを実施しています。交通事故被害者の適正な補償を目的として、自賠責認定基準に沿った後遺障害診断書が作成される支援しています。
世の中の整形外科や脳神経外科医師のほとんどは、自賠責認定基準を知りません。このため、不適切な記載内容の後遺障害診断書が頻出します。
等級認定サポートでは、依頼元の弁護士に自賠責認定基準に合致する後遺障害診断書の記載例を提示します。弁護士は主治医に診断書記載内容の訂正を依頼しますが断られるケースも多いです。
ここでは診断書の修正や追記に応じてもらえない代表的なパターンを紹介いたします。
複数回にわたる修正・追記依頼
基本的に主治医は患者さんに対して好意的です。しかし、複数回にわたって修正・追記依頼を続けると、回数を重ねるごとに応じてもらえなくなる確率が上昇します。
診断書の修正・追記依頼は、1回で完結できるように、医師に対する丁寧な説明が必要でしょう。
診療録に記載されていない内容の修正や追記依頼
診断書の修正や追記依頼を受けたときに、医師は診療録(カルテ)の記載内容を確認して、修正や追記の可否を判断します。その理由は、何百人もの患者さんの状態を細かい部分まで覚え切れないからです。
診断書の修正や追記に応じてもらえないケースでよくあるパターンは、実際には痛みで困っているのに、主治医の前では「調子いい」としか言わない患者さんです。
いつも「痛い痛い」としか言わない患者さんも困りものですが、主治医の前で「いいカッコ」をする患者さんも、後遺障害認定の際には不利に働きます。
大袈裟に症状を訴える必要はないですが、痛いときは痛いとはっきり主治医に伝えましょう。
自分の主義や主張を変えない医師
比較的高齢の開業医に多いパターンです。長い間、自分ひとりで診療を続けていると、標準的治療から逸脱した治療方針や考え方に陥りがちです。
そのような医師が主治医になると、後遺障害診断書の作成時に問題が発生する可能性があります。
【弁護士必見】医師が診断書を書いてくれない場合の対処法
転ばぬ先の杖: おすすめの主治医
ここまで見てきたように、主治医の選び方は後遺障害等級が認定される確率を大きく左右します。
あくまでも私個人の見解ですが、下記に該当する医師であれば、交通事故被害者に寄り添った治療をしてくれる可能性が高いと考えます。
<参考>
【医師が解説】交通事故の後遺障害|認定確率を上げるポイント
医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合の対処法
医師法の規定はあるものの、実際問題として医師に後遺障害診断書の記載を断られてしまうと対応が難しいです。
次善の策となりますが、手術を受けた医療機関、近隣の他の医療機関、交通事故の受傷時に搬送された医療機関などに打診してみましょう。
医師に後遺障害診断書の修正や追記を断られた場合の対処法
こちらもありがちなパターンです。後遺障害診断書の修正や追記が、後遺障害等級の審査に及ぼす影響の大きさで対応が変わります。
致命的な記載内容でなければ、修正や追記を断られた場合にはそのまま提出せざるを得ません。
一方、その記載があるためほぼ確実に非該当になるようであれば、手術を受けた医療機関、近隣の他の医療機関、交通事故の受傷時に搬送された医療機関などに、新たな診断書作成を依頼せざるを得ないでしょう。
まとめ
実臨床の肌感覚で、医師が診断書を書いてくれない理由と対処法について説明いたしました。医師が診断書を書いてくれないことには理由があります。その理由を事前に回避することで、医師と良好な関係を築ける可能性が高まります。
交通事故の後遺障害でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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