人工股関節全置換術(THA)は、股関節の痛みで困っている人にとって、股関節の存在を忘れるほど痛みを取る効果のある優れた治療法です。
人工股関節全置換術は素晴らしい治療法ですが、いくつか注意する点あります。本記事は、人工股関節でやってはいけないことを理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2024/7/6
Table of Contents
人工股関節手術後の注意点
とってはいけない体位がある(脱臼肢位)
人工股関節では、極端な体位をとると人工関節がはずれることがあります。人工股関節が外れることを「脱臼」と言います。
人工股関節が脱臼すると、自分では入れることができず、全身麻酔(もしくは静脈麻酔)をかけて整復する必要があります。
人工股関節が脱臼する可能性のある具体的な姿勢や動作(脱臼肢位)として、以下のようなものが挙げられます。
- 横座り、お姉さん座り
- 和式トイレ
- 椅子に座るときに脚を組む
- 深いソファーに座る
- しゃがみ込んで草抜きをする
- 風呂場で低いイスに座る
最近では、人工関節のデザインが改良されたり、筋肉や靭帯をあまり切らずに手術する方法が普及しているため、人工股関節が脱臼するリスクは低くなってきています。
このため、一切何も制限しない医療機関も珍しくありません。しかし、どのような手術法であっても、股関節が脱臼する可能性はゼロにはならないことに注意が必要です。
転倒しない
高齢になるほど転倒しやすくなります。人工股関節の手術を受けた人が転倒すると、人工関節周囲の骨が折れる可能性があります。
人工関節周囲の骨折は手術が必要なケースが多く、また手術自体が難しくなりがちです。このため、人工股関節の手術を受けた後は、転倒に注意が必要です。
体重を増やさない
人工股関節には、歩くたびに体重の3倍の力が加わります。このため、体重が増えれば増えるほど、人工関節にかかる負担が大きくなります。
人工関節にかかる負担が大きくなると、人工関節が擦り減るスピードが上がるため、体重が増えないようにコントロールすることが望ましいです。
人工股関節の寿命を伸ばすためには、人工関節にかかる負担を減らす必要があります。人工股関節を受けた方は太らないように注意しましょう。
人工股関節でやってはいけないスポーツは?
適度な運動は望ましい
人工股関節の手術後は、関節周囲の筋肉を鍛える適度な運動は望ましいです。筋力が強くなると、股関節の安定性が高まるからです。
高齢者では、運動することでバランス感覚が養われて、転倒しにくくなります。このため、適度な運動が望ましいでしょう。
また、運動すると骨が刺激されて強くなります。人工股関節の周りの骨が強くなると、人工関節が長持ちするようになります。
股関節を捻るスポーツは避けたほうが良い
適度なスポーツはやるべきですが、極端に股関節を曲げたり捻ったりするスポーツは避けたほうが良いでしょう。また強い衝撃のあるスポーツも望ましくありません。具体的には、以下のスポーツには注意が必要です。
- バスケットボール
- バレーボール
- サッカー
- ラグビー
- 柔道
- 空手
- 本格的な登山
- ボルダリング
これらのスポーツは、股関節を極端に捻ったり、強い衝撃を与えるため、人工関節が傷んだり脱臼する危険性があります。
激しいスポーツを許容する例もある
前述のような股関節を酷使するスポーツを続けると、人工関節が傷んでしまい再手術が必要になる確率が高まります。
しかし、スポーツが仕事であったり、生きがいの人も少なくありません。このようなケースでは、再手術のリスクを了承すれば、激しいスポーツを許可する医療機関も増えています。
ただし、関節の状態や筋力には個人差があるため、激しいスポーツを日常的に行うのであれば、主治医に相談する必要があります。
人工股関節の脱臼予防
足の爪切り
人工股関節を受けても、ある程度の股関節の固さは残りやすいです。自分で足の爪を切れないときには、家族に手伝ってもらいましょう。
靴下を履く・脱ぐ
靴下エイドやリーチャーを使用するとよいでしょう。股関節の固さに応じて、入院中から靴下エイドやリーチャーの指導を受けることが可能です。
入浴時
浴槽に入るときには、ふちに腰掛けてから入ります。手術をしていない足から入って、手術をした足から外に出ます。
浴槽のふちが低い時には、手すりをつかみながら直接入ります。手術をした足から入って、手術をしていない足から外に出ます。
横になるとき
特に制限はありませんが、膝を90度以上曲げた状態で足を組まない方がよいでしょう。
転倒を予防する方法
転倒すると、人工股関節が脱臼して動けなくなったり、人工関節周囲が骨折して歩けなくなる可能性があります。
いずれも治療が必要になるので、人工股関節を受けた方は転倒しないように注意する必要があります。転倒を予防する方法として、以下のようなものが挙げられます。
- 屋外では杖を使用する。
- 階段、風呂場、トイレに手すりを設置する
- 滑り止めのついた運動靴を履く
- カーペットなどのつまずきやすい敷物を使用しない
これらの工夫は、おもに高齢者を対象にしています。60歳代以下の若年者には当てはまらない事項も多いですが、普段の生活には意外と危険が潜んでいることに注意が必要でしょう。
まとめ
人工股関節はすぐれた治療法ですが、以下のようなやってはいけないことがあります。
- とってはいけない体位(脱臼肢位)
- 転倒しない
- 体重を増やさない
脱臼すると、全身麻酔をかけて整復する必要があります。また、転倒すると、人工関節周囲の骨が折れる可能性があります。
また、体重が増えると、人工股関節の寿命が短くなってしまい、人工関節の入れ替え手術が必要になるケースもあります。
股関節が痛くてでお困りの方がいらっしゃれば、こちらからお問い合わせください。