精神科病院や診療所では、身体科とは異なる特有のリスクや課題が存在して、そこで働く医療従事者や関係者には、事故防止のための高度な注意と対策が求められます。
入院患者による自傷行為や他害、転倒・転落、薬剤の過剰摂取といった事故は、精神科ならではの背景が絡むため、対応や予防策にも専門的な知見が必要です。
また、これらの事故が訴訟に発展するケースも少なくなく、医療機関側の説明責任や安全配慮義務が問われるケースもあります。
本記事では、精神科で起こりやすい事故の種類や背景、過去の訴訟事例、事故防止のための対策、そして損害賠償請求の流れまでを分かりやすく解説しています。
精神科医療に関心のある方、事故防止策を探している方、訴訟対応を検討している方にとって、有益な情報を網羅的にお届けします。
最終更新日: 2025/6/12
Table of Contents
精神科で起こりやすい事故とは
精神科特有の「医療事故」や「人身事故」の種類と背景
精神科では、他科とは異なる「人身事故」や「人権侵害」のリスクがあり、閉鎖病棟内での身体拘束中の事故、自殺・自傷行為、鍵や危険物の持ち込みなどが特徴です。
また、精神保健福祉法に基づく入院制度や人員配置の特例下において、医療安全体制の整備が十分でない施設もあり、組織的な事故防止の仕組み構築が急務となっています。
入院・外来で発生しやすい主な事故例
精神科で起こる事故の中でも、「自殺・自傷」「転倒・転落・誤嚥」「患者間トラブル」が大きな割合を占めています。
特に自殺事故は、精神科病院で発生する事故の約1/4を占めるとする報告もあります。自殺企図の手段として「飛び降り」「縊死」「飛び込み」が多いです。
隔離室や閉鎖病棟では、危険物管理が不十分だと重大事故につながる可能性が高くなります。
事故発生時の医療機関の対応と課題
精神科事故発生時には、院内での迅速なインシデント報告・院内調査が不可欠です。
医療事故調査制度により、死亡・死産事例において「予期しなかった」「医療に起因する」と管理者が判断した場合、民間第三者機関への報告とその分析が義務付けられ、再発防止策の策定が求められています。
しかし、事故報告手順の標準化が進んでおらず、インシデントの共有やマニュアル整備にばらつきがあるため、組織的な取り組みの一層の強化が求められます。
精神科医療における訴訟の現状
精神科で多い訴訟のパターン
自殺・自傷行為に関する訴訟
患者が入院中や外来で自傷行為を行ったら、医療機関の監督責任が問われる可能性があります。
他害行為に関する訴訟
患者が他の患者やスタッフに対して攻撃的な行動を取ったケースでは、医療機関の対応が問題視されます。
不適切な処遇に関する訴訟
身体拘束や薬物の過剰投与など、患者の人権を侵害するような処遇が訴訟の原因となります。
診断ミスや治療の遅延に関する訴訟
精神疾患の誤診や治療の遅れが患者の状態悪化を招いたら、医療機関の過失が問われる可能性があります。
過去の主な訴訟事例と判例の傾向
過去の訴訟事例を見てみると、患者の状態に応じた適切な監視が行われていなかったら、医療機関の監督義務の不履行が認定される傾向があります。
また、患者や家族に対して十分な説明が行われなかったことで、訴訟に発展する例も少なくありません。
身体拘束や隔離といった措置が不適切だったと判断され、人権侵害として損害賠償が命じられた判例もあります。
これらの訴訟では、医療行為そのものだけでなく、医療機関の姿勢や対応全体が問われるケースが多いのが特徴です。
訴訟リスクを高める要因
訴訟リスクを高める要因としては、精神科医療に特有の対応方法に関するスタッフの知識や教育の不十分さ、現場での法律的理解の欠如、記録の不備、患者や家族とのコミュニケーション不足などが挙げられます。
弁護士が知っておくべき医療調査と医師意見書の役割
精神科事故・訴訟案件での医療調査の流れ
精神科事故・訴訟では、まず弁護士が診療記録や治療データを収集して、潜在的な過失やケア体制の欠如を分析します。
次に、協力医(精神科の専門医)に医療調査を依頼して、当時の医療水準に照らして行為の適切さを判断します。
<参考>
専門医による医療調査や意見書が訴訟で果たす役割
専門医が作成する医師意見書は、カルテや検査結果に基づき、当該医療行為が当時の標準と合致していたかを明示します。
裁判官や弁護士にとって医学的裏づけとしての説得力が高く、医学的評価が争点になる損害賠償請求では、判断の軸となる証拠とされます。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
弁護士が医療調査・意見書を依頼するメリット
弁護士が専門医に意見書を依頼することで、医学的に裏付けされた法的主張が可能になります。
診療録(カルテ)や検査結果などの事実証拠だけでは不十分な医学的因果関係や過失の有無を明確化できます。
また、争点整理段階や裁判で有利に働くだけでなく、示談交渉や和解の際にも強い交渉材料になります。
精神科事故における損害賠償請求の手続き
事故発生時は病院の説明を聞く
事故が発生したら、まずは病院からの説明を丁寧に聞き、いつ・どこで・どのような状況で起きたのかを正確に把握します。
その際、「事故」として正式に認定されているか、安全配慮義務の履歴はどうかを確認することが重要です。
説明が不十分な場合は記録を取り、曖昧さを残さないように努めましょう。
弁護士に相談
損害賠償の検討を始める際は、まず医療事件に強い弁護士への相談が不可欠です。
弁護士は医学的・法律的な観点から適正な賠償額の算定や、証拠開示請求、交渉戦略の構築などの支援を行います。
弁護士による助言によって、不当な示談や時効トラブルを未然に防ぐことが可能です。
資料収集と医療調査
弁護士主導で診療録、検査データを収集して、必要に応じて証拠保全を実施します。
その上で、専門医による医師意見書を取得して、医学的因果関係や注意義務違反の有無を明確にして、交渉や訴訟に備えます。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
示談交渉
資料や医師意見書にもとづいて、医療機関と示談交渉を開始します。弁護士が代理人となることで、適正な損害額の提示、相手の主張の精査、交渉の円滑化が可能となります。
合意できれば示談契約書により法的拘束力を持たせ、早期解決と精神的負担の軽減を目指します 。
調停と医療ADR
示談が不成立の場合、裁判外の解決手段として調停や医療ADRを検討します。訴訟よりも費用・時間面で有利な点が特徴です。
医療ADRでは、患者側・医療機関側双方の代理経験ある弁護士が仲裁人となり、事実関係と医学的見解に基づいて中立的解決を目指します。
裁判
調停や医療ADRでも合意に至らない場合、最後の手段として損害賠償訴訟を提起します。
訴訟では、主張整理や争点整理の後で証人尋問や医学的鑑定が行われ、裁判所が疾病発生と医療行為との因果関係、注意義務違反の有無を判断します。
メディカルコンサルティングができること
医療ミスなのかについての医療調査
医療訴訟の多くは、単に治療結果が悪いだけで医療ミスではありません。単に治療結果が悪いだけでは、医療訴訟で勝てる確率は著しく低いです。
勝訴できる可能性の無い不毛な医療訴訟を防ぐためには、第三者による、医療ミスかどうかについての医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で医療ミスか否かの医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
医療訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で医療ミスであることが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
医療ミスの可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
医療訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医療ミスが判明して、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が医療訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から医療訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
一方、眼科や美容整形外科に関しては相談件数が多いものの、実際に医療過誤である事案はほとんど無いです。このため弊社においても、医師意見書の作成実績がありません。
精神科の訴訟事例でよくある質問
精神科で危険物とは何ですか?
精神科病棟で「危険物」とされるのは、刃物・ライター・紐類(ベルト・充電コード)など、不適切な使用で自傷・他害の可能性があるものです。
さらに、携帯電話やパソコンなど通信機器は、刺激や個人情報暴露によるトラブルの種とみなされます。
精神科に持ち込み禁止のものは?
病棟によって異なりますが、刃物・ライター・ガラス製品・爪切り・アルコール・シンナーは一般的に持ち込み禁止品です。
入院時や外出後にはスタッフが荷物チェックを行い、生活必需品でもケースバイケースで制限されることがあります。
精神科の三大疾患は?
日本で「三大精神疾患」とされることがあるのは、気分障害(うつ病・双極性障害)、統合失調症、神経症性障害(不安障害・強迫性障害など)です。
ただし、これはあくまで主要な疾患区分であり、公式な定義ではありません。
まとめ
精神科では自殺や自傷行為、他の患者とのトラブルなど、人身事故や人権侵害につながるリスクが高いです。
特に、自殺事故は、精神科病院で発生する事故の約1/4を占めるとする報告もあります。
病院や医師による監督不十分や危険物の管理ミスが、重大事故を招くケースもあります。
事故発生時は迅速な報告と再発防止策が求められますが、手順や対応が統一されておらず課題も多いです。
訴訟では自殺や誤診、人権侵害が争点となり、弁護士が医師意見書を活用して因果関係や過失の有無を立証します。
精神科の医療訴訟で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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